君と花を愛でながら
「酷いのはどっちよ。まー……好きな女が出来たらそんなもんなのかもね」
「だから、どういう意味なんだって。教えてよ」
「誰が言うか、馬鹿。死ね」
そう言って、わざと俺の顔に煙草の煙を吹きかけると。
「こうやって他の女とも話してくつもりなんでしょ。途中で死なないといいね」
にっ、と口の端を上げて笑った。
その心配はないかな。
多分一番怖いと思ってた愛ちゃんと無傷で終われたから。
結局愛ちゃんの言葉の意味を、俺はなんとなくでしか理解しないままだった。
そう、なんとなく。
ようは、好きな女が出来たからって他の関係を断ち切ろうとするのが酷いってことだろ。
でもさ。
それは仕方ないことなんじゃないの?
それまでのいい加減な女関係を断ち切らないまま綾ちゃんに言い寄るのは失礼だと思ったし。
綾ちゃんと上手くいってから、なんてのは、他の女の子達に失礼な話だろ?
間違ってない。
この時の俺はこれが誠実な行動なんだと信じて疑わなかった。
縁なんてものは細い糸のようなもので
鋏を入れようとするのは簡単だ。
だけど、一方的に鋏を入れる行為が誠実な筈はない。
それを教えられて情けなくも恥ずかしい思いをするのは、もう少し先のことだ。
この時はただ、さっさとけりをつけたい、そればかりだった。
そうでなければ、簡単に触れてはいけないような、そんな気がして。
毎日目の前にいる綾ちゃんのことで頭が一杯だった。