君と花を愛でながら


「俺のじゃないよ、それ」

「えっ? そうなんですか?」

「うん、俺吸わないし」



ボールに入ったバターとマスタードをホイッパーでかき混ぜながら答えると、綾ちゃんは手を引っ込めて手のひらで転がしながらそれを見つめる。



「じゃあ、通りすがりの人の落とし物かな? お店の裏口だからてっきり……」

「いやいや。俺じゃないってだけで他に聞く人いるでしょ」

「えっ?」



こちらを見上げるきょとんとした表情が、ちょっとリスみたいで可愛い。
くそ、何やっても可愛いけど。


煙草イコール俺に繋がったくせに、なんであの人には繋がらないんだ。



「綾ちゃんじゃないんなら」

「私じゃないですよ!」

「じゃあ、マスターしかいないでしょ」



表情が、くるくる変わるのは本当に面白い。
その視線の先に、なんで俺じゃなくてあの不愛想なマスターしかいないんだ。


綾ちゃんが、「嘘っ」と驚いた声を上げ目を見開いた。



「マスター、煙草吸うんですか? 全然イメージじゃなかった……すごく真面目そうだし」

「へー……綾ちゃんの中では煙草=不真面目=俺なんだ」

「えっ? あ、いえ。そういう意味じゃ……」



しまった、と思いっきり顔に出して慌てて取り繕うけど、もう遅い。
思いっきり拗ねたぞ、俺は。



「マスター、吸うよ。綾ちゃんも帰った後、ラストに良く外で吸ってる」

「そうなんですか。でも、想像すると似合いそうです。『大人の男の人』って感じで……」

「大人だよ、様になってて男の俺から見てもカッコイイ」

「へえ……」

「隣に立つのは、やっぱカッコイイ大人の女が似合うよな」



そうだよ、向こうはずーっとオトナなの。
綾ちゃんからは、ちょっと遠いんじゃない?

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