君と花を愛でながら
「そー、ですね」
へらりといつもと同じ笑顔に見えても明らかに元気のない、風船から空気が抜けて萎んでいくような様子を視界の端に捕らえながら。
「落ち着いた、大人の女の人が似合いそうですよね」
「落ち着いた、っていうか。気の強そうなキャリアウーマンって感じだったな」
俺の口は、止まらない。
別に傷付けたい訳じゃないのに……ほんと、カッコ悪い。
「キャリアウーマン?」
「そう、元婚約者。オープン当初はよく店に来てたよ」
「え」
「この店、ほんとは彼女と二人でやるつもりだったらしいから」
気付いたら、綾ちゃんは泣きそうなのを通り越して、呆然と口を半開きにしていた。
「婚約、されてたんですか」
「あれ……知らなかったっけ?」
別にこのセリフは惚けたわけじゃない。
本当に、知ってるもんだと思い込んでいた。
マスターも秘密にしてるわけじゃないし、オープンしたばかりの頃は本当に毎日来てたから当時のバイトの子もみんな知ってた。
だけど考えてみれば、綾ちゃんがこの店に来てからこの話題になるようなことはまずなかったし、マスターもわざわざ話したりはしないだろう。
知らなくて当然だった。
「全然知りませんでした……じゃ、このお店、ご結婚されてご夫婦でされる予定だった、ってことですか」
「あー……多分。なんで破談になったのかまでは俺も知らないけど」
途端、バツが悪くなって語尾が尻すぼみになる。
わざわざ言わなくてもいいことを言ってしまった気がして、綾ちゃんの表情を伺うけれど。
「そうなんですかぁ」
手のひらにある携帯灰皿を眺めながら呟いた綾ちゃんの感情は、よくわからなかった。