君と花を愛でながら
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今日は夕方からの客も少なく、マスターの一声でいつもよりも少し早い閉店となる。
綾ちゃんはホールの清掃を終えてとっくに帰ってしまって、俺は明日の仕込みに全く手を付けていなかったから結局いつもと同じ時刻。


厨房のごみ袋をまとめて裏口から外に出ると、深夜間近だが、街灯や窓の明かりでこの辺りは意外に明るい。


雲もなく天気の良い黒い空に、白い月がぽっかり浮かぶ。
室外機付近から湿気と熱の籠った余り心地よいとは言えない風が吹いて、煙草の匂いが鼻を掠めた。



「お疲れさまです」

「……っす」



誰に対しての後ろめたさか、まっすぐマスターの目を見れずにごみ袋に目を落としたまま、鉄の格子のついたボックス型のゴミ置き場に放り込んだ。


それでも気になってマスターの手元を見ると、昼間綾ちゃんに見せられた銀色の携帯灰皿がそこにある。



「……それ、やっぱマスターのだったんだ」
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