君と花を愛でながら
確か、オープンした頃はマスターが愛煙家であることを知らなかった。


多分ひと月ほどした頃だ。


婚約者が店を訪れることはなくなり、裏口で煙草を燻らす姿を見るようになった。



『煙草って別名思い草って言ってね』



そんな風に聞けば、尚更その姿が意味深に見えてくる。



「……何か?」

「別に」



視線を感じたマスターに問いかけられて、咄嗟に俯いてごみ淹れの蓋を締め直す。


車のタイヤが道路との僅かな段差を超える音がして、そちらを向くと乗用車が一台駐車場に入ってくるのが見えた。


もう外観の灯りは消してあるから、閉店しているのはわかるはずだ。
方向転換でもして道路に戻るだろうと思っていたら、俺の(正確には親父の店の)白いバンの横の駐車した。
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