君と花を愛でながら


店の正面ではなく側道に面した僅か数台が停められる程度のその駐車場は、裏口からでも良く見える。



「あれ……あの車」



紺のワーゲン。
見たことある、と思ったもののすぐには思い出せなかったが。


運転席から降りた女の立ち姿で、すぐに気付いた。



「……ユキ?」



すぐ隣で、訝し気な低い声がする。


ヒールが砂利を踏む音が近づいて、裏口に設置された外灯の下で漸く顔をはっきりと確認ができた。



「お久しぶり、陵」



マスターを『陵』と呼ぶ。
彼女が店に訪れたのは、オープン当初以来だ。


スーツがよく似合う、落ち着いた雰囲気の女。
勝気そうな目は相変わらずだった。

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