君と花を愛でながら
その重みの正体が、わからない。
エンジンをかけてハンドルに両腕を預けて溜息をつく。
エアコンの風が車内の生温い空気をかき混ぜる間、待つ必要もないのに動けずにいた。
今更、ユキさんがマスターに会いに来た理由はわからないが。
あの頃、店でよく見た二人は仲が良かったし、別れたらしいと知った時もなんとなくだけど、何か事情があったんだろうなと思い詳しくは聞かなかった。
互いに嫌いになって別れたわけではなさそうな、そんな気がしていたから。
俺から見れば元鞘の可能性も十分あるわけで、だったらそれで万々歳のはずだ。
綾ちゃんもいつまでもマスターを見つめるわけにもいかなくなって、ショックを受けた彼女を俺が優しく慰めればそれでいい。
「……はあ」
腹の重みを追い出したくて深々と溜息をつくと、サイドブレーキを外してアクセルを踏んだ。
脳裏に浮かぶ綾ちゃんの哀しそうな顔が
俺の胃を重くさせている。
わかっているけど、わからない。
俺にとったらラッキーなはずだろ。
さっさと失恋してしまえ。
そんな風に心の底から思っているのに
泣き顔は見たくない。
「……難儀だな」
それは自分に向けてなのか綾ちゃんになのか
定かではない呟き。
複雑で見当違いな苛立ちがマスターに向かって舌打ちとなり
俺はうちまでの僅かな距離で、いつもよりカーステの音量を上げた。
『思い草』
End