君と花を愛でながら
顔を見るのは怖くて、一瀬さんの手の中で揺れるシオンの花を見つめていた。
不思議なもので、告白した時よりも酷く鼓動が煩かった。
まさか自分に返事を催促するような勇気があったことが意外で、口にしたはいいけど怖くなってびくびくしてしまう臆病さが、やっぱり私らしいとも思えた。
だから、もしかしたらほんの僅かな間だったのかもしれないけれど、私には彼が随分長い間無言であるように感じて、そろそろと顔を上げ表情を伺う。
「い……一瀬、さん?」
見上げて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
初めて見る表情だったから。
目が合って、一瀬さんがはっとしたように表情を取り繕って「んんっ」と喉を鳴らす。
そしていつもの無表情に、ほんの少しだけ緩んだ微笑みを唇に乗せた。
「すみません。正直に言うと、綾さんのことをそういう対象で見たことはありませんでした」