君と花を愛でながら
今まではわからなかった。
小説やドラマの中で、大胆になる女の人の気持ちが。
自分に自信があるから出来るんだと思っていたけど、そうじゃないんだ。
きっと今の私みたいに、それこそ藁にも縋る気持ちだった。
「その時はもう一度、私の告白を聞いてください」
彼の目が、大きく見開いて私を捉える。
そんな僅かな幸福が欲しくて、皆勇気を出すんだ。
背伸びをして、黒い瞳を覗き込むと、そこに映る私は嬉しそうに笑ってた。
驚いている一瀬さんの表情を目にして、やっと一矢報いることができたような気になる。
どくどくどく、と心臓が煩いくらいに高鳴っていたけど、不思議と心は落ち着いていた。
初めて私から触れ合わせた唇は、柔らかくて少し煙草の匂いがして。
ファーストキスの時には感じることができなかった、じわじわと胸の中心から潤うような幸福感が生まれた。
第七話 紫苑、揺れる。
End