君と花を愛でながら

あの夏の日、あんなに大胆なことをしてしまった私は、家に帰って思い出してからベッドの中で一人悶絶し、その後少しはそう言ったことに免疫が付いたかというとそうでもない。


いきなりこの距離は、緊張するし恥ずかしい。
けど悟られるのも恥ずかしいから、ぱっと顔を伏せたまま「寒いから閉めますね」と扉を閉めた。



「綾さん、今日はもう上がってください」

「え、でも、レジ締めがまだ……」

「構いませんから、早く。積もると道も危ない」



一瀬さんはカウンターに戻ると、手荷物置き場から私の鞄とブーケの入ったショップバッグを差し出した。
確かに、私の乗る沿線は少しの雪でも電車がストップすることがある。


早く帰れるのは、ありがたい。



「じゃあ……お言葉に甘えて。すみません」

「送れたらいいんですが」

「いえ、大丈夫です。まだ降り始めたばかりだし」

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