君と花を愛でながら
今は、その時間を一瀬さんのブーケ作りの特訓に充てているわけだけど。
「……綾ちゃん。にやけたまんまで自分の世界に浸るのやめてくれない」
若干冷やかに聞こえる片山さんの声で、はっと我に返った。
いつのまにか彼の存在を忘れて、一瀬さんとの宝物の時間に浸ってしまっていたらしい。
「べ、別に浸ってません、ちょっと思い出してただけです」
とワザとらしい咳払いをして言い訳すると。
「いいけどねー」と拗ねた顔をして、片山さんは車を路肩に寄せる。
車はもう、家の真ん前まで着いていた。
「さっさと木端微塵に粉砕してくれないあんなずるい大人のどこがいいの?」
「……色々酷いですよねその言い方」
苦笑いをすると、「だってそうでしょ」と肩を竦めて返される。
確かに、ずるいし。
酷いし。
こんな風に私が気持ちを温めていても、もしかしたら花は咲かないのかもしれないけれど、私はわかってしまったのだ。