君と花を愛でながら
「冗談だって。それよりブーケの方はどうなの?」
「あっ、まだ全然……何かバレンタインらしいことはできないかなって考えてるんですけど」


プレートがこんなに可愛らしいなら、尚更ブーケも負けてられない。だけど貧困な私の発想では『バレンタインらしく』で思いつくのはハート型くらいだ。
チョコレートガナッシュを口の中で味わいながら悩んでいると、思いがけなく出された助け舟は一瀬さんの声だった。


「バレンタインにちなんだ花なら知っていますよ」
「えっ、そんなのあるんですか?」
「ヨーロッパでは、パンジーの花をバレンタインに恋人に贈るそうです。花言葉は、確か『物思い』『私を想って』でしたか」


さらりとそう言って、カップを口に運ぶ。
その姿は、いつも通りとても涼やかでスマートで、私も片山さんも数秒言葉もなく凝視してしまった。


だって、花屋カフェを経営してるとしても、とてもそんなことに詳しくは見えなくて意外だった。


「何か?」
「いえ。びっくりして……お花に詳しいんですね」


正直にそう尋ねた。
すると、ほんの少し一瀬さんがいつもの無表情を更に固くしたように感じ、ついその横顔を見つめてしまった。

< 37 / 277 >

この作品をシェア

pagetop