君と花を愛でながら
「んー……まあ。家庭環境から、そんな流れにね」


そう言った片山さんは少し複雑な表情をしていた。
「そうなんですか」と首を傾げて曖昧に返事をしたけど、なんとなくその複雑な感情には私も覚えがあり、ちくりと胸を刺した。


周囲の環境に、なんとなく流される。
私の大学の志望動機が、それそのものだった。


「でも、やっぱり片山さんはすごいと思います」


だって、私は入試に失敗したあとも、何をするでもなくただ時間を消費しただけだったから。
このカフェに、再び訪れることになるまでは。


会話が途切れてなんとなく黙り込んだまま、私は再び手の中のトングに集中した。
番重から、ひとつひとつケーキを移す。


それほど難しくない単純作業だけど、ケーキを壊さないようにと思うとつい手がぷるぷると震えてしまう。


「貸して」


と、すぐ近くで声がして、少し驚いた。
顔を上げると、さっきまでスツールに座っていたはずの片山さんが真後ろに立っていて、私の手元を覗き込んでいて。


「びくびくしながらやるから、余計に危なっかしいんだよ。別に一個くらい落っことしたって誰も怒らないから」


そう言いながら、私の手からトングを抜き取ると、私の倍以上の速さであっという間にケーキを移し終えてしまった。
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