君と花を愛でながら
「なーんだ、残念。真っ赤な顔の綾ちゃん見たかったのに。今も赤いけど」


すっかり見透かされてそうなので正直に答えたら、一頻りからかわれてとにかく恥ずかしい。
だけど夕方が待ち遠しくて、いい返事なんかそんなに期待してないのに気持は逸る。


今までの関係を一歩先に進められると、信じて疑っていなかった。
夕方、女性客が二人テーブルについていて、二人そろってブーケとのセットをテーブルに運びまた小さな歓声に励まされてカウンターの中に戻ってきた時。


「……あいつ」


いつもはちゃらけた片山さんの表情が消えて、店内ではなく外の大通りに視線は向けられている。
首を傾げて同じ方向へ目を向けようとした時、カウベルが鳴って来客を知らせた。


いらっしゃいませ、と唇が動きかけたのに声が出なかった。
入ってきた二人は何の罪の意識もなく、私を見つけて柔らかく笑って手を振る。


「悠くん、お姉ちゃん……」


迎えに来てくれる時はいつも一人だったのに。
初めて私から誘った今日に限って、悠くんは一人じゃなかった。

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