君と花を愛でながら
空いたテーブルに向かって歩いていく姉が、不思議そうに私を見て首を傾げる。
そのことに気が付いて、私は鉛みたいに重たくなった足を動かす。


行かなくちゃ、接客しなくちゃ。


どうして二人が一緒に来たのか、悠くんが誘ったのか、それとも。
嫌な予測ばかり次々浮かんでぐちゃぐちゃの頭の中を隠して、私は無理やり笑顔を載せた。


「いらっしゃいませ」


隠さなきゃ。


さっきまで浮かれた反動で、今にも震えそうな声をお腹に力を入れて絞り出す。
水のグラスをトレーに二つ乗せて、二人が向い合せに座ったテーブルに近づいた。


「悠くん、お姉ちゃんも誘ってくれたの?」


思ってもない言葉は、以外にもするする出るものなんだなって初めて知った。
だって、姉が嫌なわけじゃない。ただ、今日だけは悠くんひとりで来てほしかった。


「綾も、咲子にも食べて欲しいだろうと思って誘ったんだ」
「私は宣伝に協力したお礼にって、初日にマスターにごちそうになったんだけどね」

「あれ、そうだったんだ」
「そうなの。その時にね、いただいた紅茶が美味しくて……」


どれだったかな、と姉がメニューを真ん中に広げると、悠くんも前かがみになって覗き込む。
嬉しそうに微笑む姉の横顔はとても綺麗で、二人は前髪が触れ合うくらいにとても近くて。


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