君と花を愛でながら
「プレート、持ちますよ」


一瀬さんの声がして、私は顔を上げた。結局一人では持ちきれなくて、一瀬さんがスイーツプレートを運んでくれる。


「お待たせしました」


一瀬さんが恭しく綺麗な一礼を見せ、プレートを置くと一歩下がる。
代わって私がブーケをそれぞれのプレートの横に並べた。


「これで二度目だけど、やっぱり可愛い! あれ、ブーケ、二種類あるのね」


姉が目を輝かせながらブーケを手に取った。
スプレーマムの中に、一輪だけの白バラを主役にした花束が姉の手に触れてかさりと音を立てる。


私は少し身体を屈めて、離れた場所にいる他のお客さんには聞こえないよう声を潜めた。


「うん、お姉ちゃんは二度目だし、特別。悠くんはパンジーだけどごめんね」
「全然。すごく可愛い……って、男が花束もらって喜ぶのも変か」
「そんなことないよ」


へへ、と私は愛想笑いをして、誤魔化した。


ヨーロッパではね、バレンタインにパンジーの花を贈るんだって。
だから全然、おかしくない、本当に特別なのは悠くんの手にある花束だけだよ。


私はそれを花束にだけ込めて、声にはしないと決めた。


「ところで、ごめんね。今日、お迎え頼んだの私なのに、ちょっと遅くなりそうだから二人で帰って?」
「いいわよ、待ってるから。一緒に帰ればいいじゃない」
「何時になるかわからないし……ほら! バレンタイン最終日だから、ミーティングとか……」


なんて……本当はそんな予定なんにもないのに、適当な言葉で誤魔化してしまった。
だけど、一瀬さんならもうカウンターに戻っただろうから聞かれていないと思ってたのに。


「だったら、遅くなるだろ。後からでも迎えに」
「私が責任を持って送ります。遅くまで申し訳ありません」


断り文句を探す私の背後から声がして驚いて振り向くと、すぐ後ろに営業スマイルで語りかける一瀬さんがいた。

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