君と花を愛でながら
最後の客が帰って、ようやく扉のプレートをクローズにひっくり返す。
すっかり暗くなってキラキラ電飾の明りに飾られた街路樹はロマンチックで、きっとカップルで歩くことを想定して作られたんだなんて僻み根性が顔を出す。


今頃、悠くんとお姉ちゃんは二人で食事にでも行ってるんだろうか。


テーブルから皿を引き上げてカウンター内まで運んでため息を零すと、一瀬さんが声をかけてくれた。。


「疲れたでしょう、少し休んでてください。片付けたら送ります」
「あっ、すみません! 大丈夫です、手伝います」
「いいから」


有無を言わさず丸椅子を勧められて、私はいろんな意味を込めて「すみません」と呟いた。


何にも聞かずに話を合わせてくれて、「送る」なんて言わせてしまって。
それ以上は、何も聞かずに居てくれたことが、とてもありがたかった。


暫くして甘い匂いが漂い顔を上げた。目の前にカップが差し出され何気に受け取ると、手のひらにカップの温かさがじわりと沁みた。


「これ……」


見上げると一瀬さんがどうぞと頷いてくれ、カップで手を温めながら口をつけた。


口の中に、カカオのほろ苦さと絶妙な甘さが広がっていく。
洋酒が鼻孔を擽って、少し大人の香りがして……気づいたら、泣きながらホットチョコをちびちびと飲んでいた。



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