君と花を愛でながら
「苑ちゃん!」


手を振り返すと、苑ちゃんはカフェスペースには入らずに花の陳列のところで屈んで花を眺め始めた。
私は「ちょっと行ってきます」と二人に声をかけて立ち上がる。


「お友達?」
「姉の親友なんです。私もしょっちゅう一緒に遊んでもらってて……高校生の時からお花屋さんでバイトしてるからブーケでも少し相談に乗ってもらったんです」


そう言って、ぺこりと頭を下げて苑ちゃんへと近づいた。


「見に来てくれたの?」
「んー? 咲子と約束があるからさ。どうせなら綾のとこで待ち合わせようってことになって。パンジーのブーケ、水揚げも上手くいったみたいだね」
「うん、ありがと! 苑ちゃんのおかげ!」


水がなければすぐに萎れてしまうパンジーをどうやって花束にするのか……実はネットで調べても母に聞いてもよくわからなくて、花屋でバイトしている苑ちゃんに協力してもらった。フローリストになりたいらしくて、大学以外でも独学でずっと勉強している頑張り屋さんだ。


彼女はちらりと腕の時計を見ると、少し考えて一つの花を指差した。
入荷したばかりの槍水仙で今店頭で一番のピチピチちゃんだ。


「咲子が来るまでちょっと時間あるし。綾、これでブーケ作ってくれない?」
「うん、いいけど、スイーツプレートとセットにする?」
「珈琲だけもらうからいいや。これは単品で」


頷いて花を数本、花付の良さそうなのを選ぶ。
私なんかよりずっと先輩の苑ちゃんにブーケを作るのは、ちょっと緊張してしまう。


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