君と花を愛でながら
ガラス窓の外を見ながらブラックコーヒーを飲む苑ちゃんは、なんだかとても大人っぽい。
ひらりと苑ちゃんの手が揺れて、窓の外の大通りを見ると早足で姉が歩いてくるのが見えた。


……んん?
お姉ちゃん、なんか怒ってる?


姉が珍しく、私がよくするみたいに唇をつんと尖らせて拗ねたような表情をしていたような気がした。
カラコロとカウベルが鳴ってすぐ、姉は私に小さく片手をあげて「紅茶ちょうだい、あったかいの」とだけ言って、まっすぐ苑ちゃんのいるテーブルに向かい正面に座る。


一瀬さんが入れてくれた紅茶のカップをトレーに乗せて運んで行った時、姉が控えめではあるけれどテーブルを叩く仕草をして驚いた。


「なんで言ってくれなかったのよ」
「あはは、うん。ごめんね?」


どうやら、苑ちゃんが怒らせたらしい?
私が首を傾げておろおろしながらも姉の前に紅茶を置くと、私をちらりと一瞥した。


「……苑ちゃん、大学辞めるんだって」
「え……ええっ?! なんで?!」

「専門学校に行くんだって、フラワーデザインの」
「そうなんだ! 苑ちゃんすごい!」

「いやいや、行くだけだからまだすごくないでしょ」
「すごいよ、だって」


苑ちゃんの家は両親ともに教師をやってて、親の手前苑ちゃんも教育学部に行くしかないって確か高三のときに悩んでたはずだ。
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