君と花を愛でながら
「親説得するのと学費貯めるのに一年かかっちゃった」


そう言って苑ちゃんはぺろりと舌を出して肩を竦めた。その様子を見て、姉はむすっとしたままだ。


「……私にちっとも相談してくれないで。退学届出してから白状するなんて」
「別に遠くに行くわけじゃないんだからいいじゃん」
「良くない、大学で会えなくなるし、苑ちゃんが行く学校全然方向違うもん」


ぶつぶつと文句を連ねる様子に、やっと納得がいく。
なんだあ、お姉ちゃん拗ねてるだけなんだ。


きっと、何も話してくれずに苑ちゃんが行動したことが寂しかったんだろう。
拗ねたお姉ちゃんを宥めるのは苑ちゃんに任せて、私はクスクス笑いながらその場を離れてカウンターに戻った。


「何かありましたか?」


話の内容までは聞こえなくても、何か揉めている雰囲気は感じたのだろう、一瀬さんに尋ねられ、私は首を横に振って答えた。


「姉が拗ねてるだけです。親友の苑ちゃんが、自分に黙って大学辞めたからって」
「なるほど」


納得した様子で一度頷き、洗い終えた食器を白い布で丁寧に拭き上げていく。


「あ、私やります」
「そうですか?」


手を差し出すと白い布が渡されて、私は洗いあがりの食器を入れている籠に手を伸ばした。
私が拭いて、一瀬さんに手渡すとそれを食器棚に並べてくれる。


食器棚の高いところは私では届かないところもあるから、なんとなくできてきた仕事の流れだ。
紋様が綺麗に描かれたソーサーを拭きながら、私は客席にいる二人にまた視線を向ける。


「お姉ちゃんって、私から見たらすごく大人っぽいのに。なんか、苑ちゃんといる時って甘えん坊に見えます」


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