君と花を愛でながら
「ああ……本当ですね。こうしてみると、雰囲気が綾さんとお姉さん、よく似て見えます」
「……あの。それってどういう……」


それって私が見るからに甘えん坊ってことでしょうか。
その通りだけどまさか一瀬さんにそんな風に言われるとは思わなくて、ちょっと唇を尖らせて拗ねた顔で拭いたお皿を一瀬さんに差し出した。


すると、一瀬さんがふっと苦笑いを零してお皿を受け取る。


「……そっくりですよ、その表情」


言いながら視線を姉がいる方へと向けた。
見ると、姉も私と同じように唇を尖がらせたまま上目使いで苑ちゃんを睨んでいた。


「あんなに思いっきり拗ねてないですもん」


そう言ってきりっと表情を引き締めてみせる。
すると、一瀬さんはいきなりくるっと背中を向けて、「ぶふっ」と吹き出し肩を震わせた。


「ちょっ……ひどいですそんなに笑うなんて」
「なになに、えらく楽しそう」


恥ずかしくなって、顔が熱くなったところに片山さんも厨房から顔を出す。
私はまだ肩を震わせる一瀬さんを指差して言った。


「マスターが笑うんです、私が甘えん坊だって!」
「え、それ今更笑うとこ?」
「片山さんまでひどい!」


確かにそうだけど、ずっと甘えてたけど!
これでもちゃんとお姉ちゃんや悠くんから卒業しようと頑張ってるのに!


そう思いながら、結局口元が自然と尖がる私は、きっと間違いなく子供っぽい。
だけど、そんな私を見て片山さんはもちろん、一瀬さんまで楽しそうに笑ってくれたから、なんだか少し嬉しかった。


最初は怖いだけだった一瀬さんが、この頃ちらちらと笑った顔を見せてくれることが多くなったから。だから、私は今のこのお店の空気が、とても好きだ。
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