君と花を愛でながら
少しずつお客さんが増えてきているのも、そういうのが案外お客さんにも伝わってるのじゃないかなって思う。
最近よく来る若いカップルさんも、カウンターで私や一瀬さんと話しをしてくれて、楽しいと言ってくれる。


カフェのメニューやブーケは勿論、こんな風にお店の空気に惹かれてお客さんが来てくれるっていうのも、いいなって思えた。


「わあ、綺麗! いい香り!」


姉の少し興奮したような高いトーンの声が響いて、はっきりと耳に届いた。
見ると手を口にあてて肩を竦ませながらも、ブーケを片手に嬉しそうに笑っている。


「あ……あれ、お姉ちゃんにだったんだ」


拗ねている姉のご機嫌をとる為のブーケだったのかと気づいて、ちくりと棘が胸を刺す。
姉への贈り物に、イキシアを選んだ苑ちゃんの気持ちが、せつなくて少し怖くて。


私が悠くんにパンジーを贈ることを最後に、恋心を昇華させたみたいに、苑ちゃんは親友でもある恋敵にイキシアを贈ることで、決着をつけようとしてるのかもしれない。


だって、苑ちゃんが姉を見る目はとても恋敵に向けるような鋭さはなく、いつもどおりとても優しい。


それは……恋よりも友情を取ったと、そういう意味なのだろうかと。
お姉ちゃんの手の中で、叶わない「秘めた恋」が薫り高く、窓越しに光を受けていた。



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