君と花を愛でながら
「あ、悠くん」


不意に姉が窓ガラスの向こうに手を振った。
そのことですっかり二人の空気に魅入っていた私は、はっと我に返る。


入口に目を向けると、姉に気付いた悠くんが手を振りながら入ってきた。


「あっ……」


悠くんの姿を認めた途端、今まで柔らかだった苑ちゃんの表情がふっと消える。
私はグラスに水を汲みながら、胸が痛むのを感じて唇を噛んだ。


「大丈夫? 綾ちゃん」
「えっ?」
「いや……俺が行こうか?」


片山さんが心配げにそう尋ねる意味が、一瞬わからなくて首を傾げたが、すぐに思い至った。
悠くんに失恋したばかりの私を慮ってくれたのだ。


そしてそのことが少し、自分でも意外なことに気付かせてくれた。


「大丈夫です、私は」
「そう? でも今……」


泣きそうに見えたから、と語尾は顔を近づけて耳元で小さく囁いた。泣
きそうになっていたことを、知られないようにそっと話してくれる片山さんの優しさに思わず頬が緩んだ。


「大丈夫です、ほんとに」


せつなかったのは、私の失恋に対してではなく、苑ちゃんの気持ちを想ったからで……自分自身の痛みではなかったことに気が付いた。
それはきっと、このカフェの存在のおかげに違いないけれど。


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