君と花を愛でながら
「……そうだ、綾ちゃん」
一度は返事をしたものの、未だ呆けたように二人を見つめる私に今度は片山さんが声をかけてくれた。
「パンケーキ食べる?」
「え……えっ?」
「プレートの種類増やそうかなって提案してたんだよ。パンケーキなんかもうどこも定番だろ。味見係の綾ちゃん、頼むな」
「ええっ! 試作の度に私が味見するんですか? 絶対太りそう!」
味見係が私の仕事みたいな片山さんの言葉に、思わず抗議の声を上げる。
甘いものは、大好きだ。だけどそんなことしてたら、ひと月後には今の服が入らなくなってる気がする。
そんな私の言葉は無視して片山さんは「いいからいいから」と、厨房に戻っていった。
多分すぐに、甘いケーキの香りが漂ってくるはずだ。
「それじゃあ、紅茶でもいれましょうか」
私達のやりとりを見て、一瀬さんが紅茶の茶葉の缶を選び始めた。
よっぽど、泣きそうな顔でもしていたのかな。
優しい二人に私はすっかり甘やかされてる気がする。
三人全員分のカップを選んでカウンターに並べながら、私はもう一度窓辺の二人に目を向けた。
笑い合う二人の姿を見て思わず零れたひとりごと。
「……好きって難しい」
苑ちゃんの恋の相手が誰なのか、どちらにしても秘めると決めたのなら告げられることはないのだろうと思う。
好きな人が、想いを返してくれるとは限らない。
誰かの恋が実ったら、誰かの恋が終わる、それはごくありふれた、どこにでもあるせつなさで。
どこにでもある、胸の痛み。
姉の手から離れたイキシアの花が、テーブルで陽光を浴びる。秘めた気持ちは、光に照らされることはないのだろうに。
「イキシアの花言葉」 End