君と花を愛でながら
聡さんが来たのは、それから三十分が過ぎてからだった。
店にもうお客様はいなくなって、そろそろクローズにするか一瀬さんに聞こうかと思い始めた頃になって、カランコロンとカウベルが鳴る。



「こんばんは、綾ちゃん」



へらへらと笑って入口付近で立ち止まる聡さんに、カフェ側に居た私は「いらっしゃいませ」の言葉も出ずに歩み寄る。
聡さんはわざとらしく店内を見渡してから言った。



「静、帰っちゃったかな? 待ち合わせだったんだけど」

「もう、とっくに帰られました」



あきらかに素っ気ないはずの私の声にも、懲りることなく彼はレジカウンターの中に入る私に近づいてくる。



「ああ、残念行き違っちゃったかな。じゃあ、もう仕方ないし」

「……」

「もう、閉店でしょ。綾ちゃん、これから食事でもいかない?」



それを聞いた途端、堪忍袋の緒が切れるというのはこういうことかと思うくらい、自分の中で何かが爆発するのがわかった。

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