君と花を愛でながら
「さあ……それは存知上げませんが、何か想い出の花とかでは?」

「いや……」



思い浮かばない様子の聡さんに、私はなんとかあの時の静さんの様子を伝えたかった。
だけど、先ほどやらかしてしまったことを考えれば声に出すこともできず、唇を噛みしめようとした時。



「綾さん、何か聞いてませんか?」



一瀬さんが、私を振り向いた。
見上げると、視線で優しく促され、逡巡する私にもう一度尋ねる。



「静さんから、花束を頼まれた時に、何か話しておられたでしょう?」

「はい……あの」



一度、ぺこりと頭を下げて聡さんの顔を見る。


心辺りが、ありますように。
祈るように聡さんの表情を見つめた。




「この間見に行った映画にピンクのバラの花束が出てきて羨ましかったって……とても、嬉しそうに笑ってらしたから。貴方と見に行った映画のことだと……私は思ったんですけど」

「映画……」



呆けたように、私を見下ろす聡さんは何かを考えていたけれど。
数秒して、みるみると顔色を変えた。
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