本当の答え
「香奈…大丈夫か?」
「あ…ぁあ…あ」
 私は[言葉]を発する事が出来なかった。
 自分が死ぬから?
 違う。
 押されたから?
 違う。
 裏切りという行為を平気でする人達が、同じクラスにいたのだという現実を突きつけられたからだ。
 人は、暴言からは暴言しか生まないのだ。
「そんな…」
 こんな不条理な世界で今まで生きてきたんだ。
 それなら死んだって別にいいじゃないか。私が生きている。ただそれだけのことで、何万人、何億人という数の人を悲しませてしまうくらいなら。
「翔汰……」
「っ…………」
 翔汰は何も言わずに私の目を真っ直ぐ見つめた。その目にはどこか悲しそうな影が射していた。
「わた…し…死ぬの?」
「死なせない…」
 翔汰は、私を強く抱き締めた。本当に強く。力強く抱き締めた。
「死なせない…嫌だ…死なないでくれ」
 ポツリポツリと翔汰の口から漏れだす言葉は、あまりにも悲痛な叫び声だけだった。
 死ぬのはさほど怖くないけれど、こんな死に方はしたくない。大切な人をこんな悲しませてしまう。そんな死に方したくない。
「翔汰…」
「香奈…嫌だ……死なないでくれ……離れたくないんだ…たの…む」
 その言葉がやけに耳に残った。
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