こっちを向いてよ、ダーリン!

――――――――
 ――――――

「それで、またここに転がり込んできたわけね」


当面の荷物を取りに部屋に帰った後、再び来てしまったのは、やっぱり茜のところだった。

私には、ここしかない。


茜は、起きぬけの格好で、ふわぁと一つ欠伸をした。


「コーヒーでも淹れるね」


勝手知ったる茜の部屋。


お昼も間もなくだというのに、未だ眠そうにソファに深く腰を下ろす茜に代わって、キッチンに立った。

といっても、インスタント。
カップにお湯を注ぐだけなのだ。



「しばらくの間、ここに置いてください」


湯気の立つコーヒーカップをテーブルに置き、正座をして仰々しく頭を下げる。


「そのセリフ、一体、何度聞けばいいのかしらねー」

「お願い、何でもするから」


出て行っては、また戻る。
自分勝手は分かっているけれど。

両手を顔の前で合わせて、茜を拝み倒す。


私にはここしか行く場所なんてないのだから。


「ま、圭くんに振られて可哀想だし、仕方ないからいいわよ」



< 116 / 276 >

この作品をシェア

pagetop