こっちを向いてよ、ダーリン!

気に留める様子もないまま、「こっちこっち」と医務室へと連れて行かれた。


「それで、何ですか? 私、今日はこれで帰りなんですけど」


患者が座る丸い椅子に腰を下ろし、先生を急かす。


「おいおい、その前に何か言うことがあるだろ?」

「……はい?」


何の催促?
首を傾げて数秒間、シンキングタイム。

――あ。
そうだった。


「この前は……ありがとうございました」


圭くんの家を出たあの夜。
頼んで送ってもらったわけではないけれど、半ば強引とはいえ、胸を借りてしまったし……。

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