こっちを向いてよ、ダーリン!
本当は全然「ヒドイ」なんて思ってないくせに。
圭くんとの、こういうじゃれ合いみたいなことが嬉しくて仕方ないくせに。
「冗談だ」
投げつけた枕をたやすくキャッチして、圭くんは私の手元にふわりと投げ返した。
思わずドキっとさせる、優しくて理知的なその笑顔。
そんな武器に太刀打ちできるものなど持っていない私は、ただ笑い返すことしかできなかった。
「いつまでも寝てないで、そろそろ起きるんだぞ」
「……はい。行ってらっしゃい」
圭くんが部屋のドアを閉めると、急いでベランダへ出て、圭くんがマンションから出ていく背中を待つ。
……まるで中高生みたいだ。
これでは、憧れの先輩の姿を学校のベランダから探す、奥手な女の子そのもの。
今まで付き合ったどの人とも感じることのない、この切なさ。
それは、毎朝こうして圭くんを見送るときには必ずといっていいほど感じさせられていた。
近くにいるのにどうにもならないもどかしさが、私に大きなため息を吐かせるのだった。