こっちを向いてよ、ダーリン!

「こんな山で逃げ出すわけがないじゃないですか。どうやって帰るっていうんですか」

「いいや、沙羅ちゃんならやりかねない。クマと仲良くなって、助けてもらうとか」

「…………」


反論するのも面倒くさくて、深い溜息でアピールしてみせた。


……私ってば、何でこんなところにいるんだろう。

山に連れて来られるなんて思ってもいなかったから、履いているのはヒール。
洋服だって、山歩きとは程遠い、どちらかと言えばエレガントな雰囲気だ。

草が生い茂って、ところどころ石が転がっている道の歩きにくいことといったらない。
自然と唇を突き出して、不機嫌顔になっていく。

そんな私の顔を見て、先生がニヤリと笑った。

< 218 / 276 >

この作品をシェア

pagetop