こっちを向いてよ、ダーリン!

何をよろしくするというのか。

最後には悔しいくらい綺麗な笑顔を浮かべて、坂下真奈美という女性は帰って行った。


途端に力が抜けて、玄関先で座り込む。

腕時計を忘れてくる部屋――。
いくら考えても、行きつく先は同じ答え。

それ以外には、到底考えつかなかった。


しばらくすると、圭くんが帰って来たことを告げるインターフォンが鳴らされた。

もしかしたら、彼女とマンション前ですれ違った?
そう思うほど、間を置かない時間だった。

未だ鼓動は速く、腰が抜けたような状態の私は、そのまま「鍵、開いてるよ」とだけ小さく声を掛けた。

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