こっちを向いてよ、ダーリン!
それを合図に開かれるドア。
圭くんは座り込んでいる私に驚いて、「どうかしたのか?」としゃがみ込んだ。
「……おかえり」
とりあえず口を開く。
圭くんは私が握っていた腕時計に気がついて「それ……」と呟いた。
何も言わずに突き返すと、何とか力を振り絞って立ち上がった。
「沙羅、これ――」
圭くんが何か言いかけたことも無視して、自分の部屋へと逃げ込む。
こんな態度をしていたら、きっと圭くんへの気持ちがバレてしまうのに。
だって、圭くんはあれをどこへ置き忘れたのかってことくらい、自分で分かっているんだろうから。