こっちを向いてよ、ダーリン!

それを合図に開かれるドア。
圭くんは座り込んでいる私に驚いて、「どうかしたのか?」としゃがみ込んだ。


「……おかえり」


とりあえず口を開く。

圭くんは私が握っていた腕時計に気がついて「それ……」と呟いた。

何も言わずに突き返すと、何とか力を振り絞って立ち上がった。


「沙羅、これ――」


圭くんが何か言いかけたことも無視して、自分の部屋へと逃げ込む。

こんな態度をしていたら、きっと圭くんへの気持ちがバレてしまうのに。
だって、圭くんはあれをどこへ置き忘れたのかってことくらい、自分で分かっているんだろうから。

< 23 / 276 >

この作品をシェア

pagetop