こっちを向いてよ、ダーリン!
けれど、その幻覚は消えることなく、そこにとどまっていた。
ジリリリと発車のベルが鳴り響く。
圭くんは私の腕を掴み、慌てて電車から降ろした。
音を立ててドアが閉まると、静かに発進した電車はゆっくりと駅から姿を消して行った。
「どうしてここ――」
不意に抱きすくめられて、言葉を失くす。
何が起きているのか、理解ができなかった。
「沙羅を迎えに来た」
「……どういう、こと?」
迎えに来たと言われても、やっぱり分からない。
「健二に、沙羅は今夜帰さないって言われて、いてもたってもいられなかったんだ」