こっちを向いてよ、ダーリン!

“バカ”という言葉が、優しい言葉に聞こえたのは初めてだった。


上りの電車が出発したおかげで、ホームには私たち二人だけ。
人の目を気にせず、こうして抱き合っていられることが、ものすごく幸せだった。

そういえば、圭くんはどうしてここが分かったんだろう。
ふと肝心なことを思い出した。


「ねぇ、圭くんはどうやってここに?」

「健二に吐かせた」

「え?」

「沙羅の携帯が繋がらなくなったから、健二にしつこく掛け続けたんだ」


何度も鳴っていたのは、圭くんからの電話だったのだ。
だから先生は、出る必要はないって言っていたのだ。


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