こっちを向いてよ、ダーリン!
その唇で、私のささくれた心を溶かしてほしいの。
その腕で強く抱きしめて。
言葉にできない想いをすべて受け止めてよ。
「圭く――」
「何か着るもの取ってくるから」
「圭くん、待って! そ、それじゃ、私をママだと思って抱いてもいいから。お願い――」
本当はそれじゃ嫌なくせに。
圭くんを引き止めるためだけに出てきた、精一杯の譲歩。
他の誰かに取られるくらいなら、ママの身代わりでもいい。
だから、圭くん、お願い。
それなのに、一旦足を止めた圭くんは、私の言葉を振り切るようにリビングから出て行ってしまった。
私たちの均衡が崩れた瞬間だった。