こっちを向いてよ、ダーリン!
「ファザコンなんてやめてよ。大人の男って言って」
「大人の男ねぇ。……近くにいるじゃない」
「どこ? どこどこ?」
そんな人がこの教室内に?
それならば、ぜひお近づきに。
あたりをキョロキョロする私の耳元に茜が口を近づけ、淫靡に呟く。
「ケ・イ・く・ん」
ちょっ……今、なんて言った?
思わず体を強張らせた。
その名前が茜の口から出てきた拍子に、隠し通してきた気持ちが隙を見つけて私を突き動かす。
「や、やめてよ」
動揺を誤魔化しきれずに、口ごもった。