Like Cats and Dogs



家にたどり着いてもヤツは『あがりたい』と言わなかった。私も「お茶でも?」の一言を言わなかった。


当然よね―――


でも何だか拍子抜け。


猿渡はただ単にスーツにワインをこぼした責任を感じてるだけで―――


つか、新しいスーツはどうした……?って……まぁこの時間ならどこもお店も開いてないのが当たり前だし、


やっぱりあれは口実だったんだな。(こっちもこれ以上借りを作りたくないし、スーツは諦めるわよ)


その次の日も、その次の日も―――


猿渡とは何かとつけて派手に対立しながらも私たちはそれぞれの仕事に励んだ。


そして一週間が経ったある日の週末―――


金曜日の夜は大概予定を入れないようにしている。自身で夜更かしデーと名付けた金曜日(正確には土曜日)の深夜にお菓子作りをするのが私の楽しみ。


たった一つの趣味。


女三十、一人暮らしの真夜中に何やってんだか…と虚しくなるときもほんの少しはあるけれど、やっぱり楽しいものは楽しい。


まったりとした夜に甘い香りを漂わせて。ショパンの音楽に乗せてケーキが焼けるのをオーブンの前で待っていると


ピンポーン


インターホンが鳴り響いた。


「こんな時間に誰?」


時間を確認すると夜中も三時だった。


明日の朝食用に作ったスコーンはあと十五分後に焼き上がる。


用心深くインターホンカメラを覗き込むと





猿渡の笑顔がドアップに映っていて、私は思わず目を開いた。





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