Like Cats and Dogs
無視をしようかと思ったけれど、部屋の窓から漏れる明かりで私が起きていることはバレバレだし、何よりしつこく鳴らされるインターホンに根負けした。
「うるっさい!何時だと思ってんのよ」
小声で怒鳴りながら出ると、
「うぃ~す♬遊びに来た~☆今日泊めて♪」
と信じられない発言。
「は!私があんたを泊める?ありえないんだけど」
「同期のよしみで泊めてよ~。今までこの近くで飲んでたんだけど終電なくなっちまってさぁ、タクシーで帰る程金持ってねぇし」
「だからって私の家に来る!?ネットカフェとか色々手はあったでしょうが!」
「こないだの借りを返してもらいにきただけぇ」
と猿渡はのんびり。
玄関口で勝手に靴を脱ぎながら、「犬井んちってすっげぇ良い香りがする。アロマでも焚いてんの?」
と辺りを鼻でくんくん。
「玄関は―――ラベンダーのアロマ焚いてるけど…」
「へぇ、女の子らしいじゃん♬」
猿渡はにっこり笑って、勝手に上がる。
普段絶対私に見せない笑顔をされて私は戸惑った。何故だか心臓がドキリと波打つ。
猿渡はどうやら相当酔っぱらってるようだ。廊下を歩くその足取りが危うい。
「ちょっと!本当に帰ってよ!迷惑なんだから」
と追い出そうとしても
「はっきり言うねぇ。ま、そう言うところも好きなんだけど」
と猿渡はへらへら。
好き―――
どうせ、出会ったどんな女の子にもそんなこと言ってるんでしょ。
そうこうしている内に
ピー、ピー、ピー…
オーブンがスコーンを焼けた音を報せた。
「何、真夜中に料理?」と勝手に入り込んだ猿渡はキッチンのカウンター越しから身を乗り出して覗き込んでいる。
「ケーキ…と言うかスコーンよ。明日の朝食用に焼いたの。
おいしそうにできたわ」
私がミトンを手に被せて中から出来上がったスコーンを取り出そうとすると
いつの間に近くに来ていたのか、猿渡が私の顔をじっと覗き込んでいた。