Like Cats and Dogs
「こんな言葉知ってる?
“喧嘩する程仲良い”って」
猿渡の顔は離れて行こうとせず、私をじっと見つめている。こいつの纏ったムスク系のフレグランスがバニラの香りに混ざって心地良く私の鼻孔をくすぐる。
見られていることがこの上なく恥ずかしくて顔を逸らそうとして
「……からかって楽しんでんじゃないわよ。私はあんたの遊びに付き合うほど暇じゃ…」
言いかけた言葉をまたもキスで塞がれる。
「酔ってねぇし、冗談でもねぇよ。寄りによって何で犬なんて好きになっちまったんだろうなー」
そう言いながら私の肩を抱き、そっとその場に押し倒される。
「ちょっ…!ちょっと!」
と抗議の声を上げればキスで塞がれ、抵抗しようとするとそれを阻むように猿渡の手が私の体をそっと撫でる。
猿渡の手は乱暴な口調とは違ってとても優しくて、あったかくて―――
「………ちょっと!サル……」ヤツの名前を呼ぶと
「犬井 都子。好きだ。俺の名前は猿じゃなくて―――」
「真也」
私は彼の名前を呼んだ。
そのときはもうとろけそうな程私の体は猿渡の温もりでいっぱいで―――バニラよりも甘い吐息が口から漏れては、ムスクよりも強烈な快感が私の全身を駆け抜けた。
猿渡 真也
名前
忘れてたんじゃなくて、意図的に忘れようとしていたのだ―――
好きにならないよう。彼のことを求めないよう。