あたしの意地悪な弟
 「でも、凛ちゃんはもう俺の彼女だから。奪えるものなら奪ってみなよ。行こ、凛ちゃん」

 そう言って先輩はあたしの手を握り教室を出た。



 教室には勇輝1人が残され、ポツリと呟いた。

 「俺だって今さらなのは分かってんだよ・・・」



 夕日先輩に手を引かれ、あたしは正面玄関まで来た。

 何も喋らない夕日先輩にあたしは話しかけた。

 「先輩、あの・・・」

 「ごめんね凛ちゃん。分かっているんだよ本当は。勇輝君が素直に凛ちゃんのことを好きだって認めたら、凛ちゃんを離してあげないといけないって」

 涙を流さず夕日先輩が泣いている。それなのにあたしは・・・。

 そしてあたしは決心した。

 「夕日先輩、あたしは自分の気持ちに気づいているのに、このまま夕日先輩の彼女でいることは夕日先輩にとって失礼なことだと思うんです。だからあたしは夕日先輩とお別れします」

 「凛ちゃん・・・」

 「でも、だからといって夕日先輩と別れてすぐに勇輝と付き合うなんてことはしたくないです。あたしは夕日先輩に甘えて夕日先輩の気持ちを傷つけてしまいました。それなのに自分だけ楽して今度は勇輝に甘えるなんて嫌なんです。これはあたしへの罰です」

 「凛ちゃんは甘えてたんじゃなくて、俺に優しくしてくれただけだよ」

 夕日先輩は優しい声で言った。

 その言葉にあたしは泣きそうになった。

 「笑って。俺は凛ちゃんが笑顔になることが一番嬉しいから。でも、最後に一つわがまま聞いてくれる?」

 「はい・・・」

 「あと一週間だけ俺の彼女でいてくれないかな。それで、その一週間の間だけでいいから俺を世界で一番幸せな人間でいさせてくれないかな」

 



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