雷獣
「で、話はそれだけか?だったら戻るぞ。」
「もう少しだけ。」
遥香は砂浜に腰を下ろした。
洸希も隣に座る。
遥香が夕日を見ながらぽつぽつと話し出す。
「あいつらの顔とかはまだはっきりと思い出してないんだけどさ、声とか触られた感触とかそれだけははっきりと思い出してさ......自分の体が気持ち悪くて。また忘れられたらなーなんて都合のいい事ばかり思ってて。
まぁ、そんなこと無理だってわかってるんだけど
こんな事さ洸希にしか吐き出せなくて、みんなの事だからすごく心配してくれるだろうし自分を責め続けちゃうと思って。
だから私もみんなの前では何ともない振りしたくて洸希に吐き出しちゃった。
ごめんね。」
「そんな事でいいならいつでも話聞くから、俺じゃ話しにくいなら叶葉のとこ連れてってやるから。俺しか見てねーし誰にも聞こえねーよ。明日また笑えるように気が済むまで泣いとけ。」
横にいる遥香を見ると涙を流すのを唇を嚙みながら必死にこらえる姿を見ていられなくてつい”泣いてもいいんだぞ”って後押しをしたくなって言葉が出た。
「.........っふ.......っっグス。..........」
それでも遥香は声を押し殺して泣く。
そんな遥香の横で煙草を吸って背中をトントンする洸希はまるで兄のようだった。