雷獣
「記憶がいつ戻るのかは分からない。戻るのかも分からないです、現状。」
先生が苦い顔をしながら言った。


「え?」
と声をあげたのは遥香ではなく拓哉のほうだった。


「積極的に記憶が戻るように動いてもよし、全部が消えたわけじゃないんだから
これから新しい記憶を作るのもよし。篠崎さんの自由です。
ただ、もし記憶を取り戻しに思い出の場所に行くときは1人ではいかないこと。
急に思い出して混乱するかもしれないし、思い出したくない記憶かもしれない
そうなった時一人は危険だから。そこは覚えといて下さい。」

「はい、わかりました」
と残念な顔をしてる遥香に先生が

「記憶を覚えてるのはなにも脳だけじゃないから、」

「どういうことですか?」
と切り込む拓哉


「臓器移植とかで報告があがっているんだけどドナーの記憶がレシピエントつまり移植を受ける患者さんに転移する。って話、つまり心臓や眼球、手足にも僕たちが知らないだけで細胞が記憶をしてるんじゃないかって」

「だからこれから篠崎さんが記憶になくても懐かしいと感じたり、思ったりするのは間違えじゃないかもしれないから否定的にならずに受け止めていいと思います。」
そう言いニコッと笑う先生。
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