タイガーハート
終礼を告げるチャイムが鳴る。
『小虎ー!』
ざわめく教室の中、俺を呼ぶ声がした。
声の方へ視線をやると、伏見が手招きをしている。
その隣には、野並さん。
野並さんと一瞬目が合ったが、逸らして伏見に歩み寄る。
「話し合うんだろ」
『うん!んじゃ、梨央!
また明日ー!』
野並さんが何か言いたげな表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。
『うん!
もも、…小虎くん。
また明日ね!』
「野並さん、ちょっと待って」
伏見の方を見る。
「伏見、ちょっとここで待ってて。
すぐ戻る」
驚いた表情で振り返っている、野並さんの横を通り過ぎながら、つぶやく。
「玄関まで送る」
教室を出て、廊下を二人で肩を並べて進む。
やはり小さいためか歩くのが遅い。
意識して合わせながら歩く。
『あ、ありがとう…』
ポツリと横で声がした。
「…朝はごめん」
すると、野並さんの手が俺の袖を掴んだ。
少し強めに、恐怖を打ち消すように。
「辛いことは忘れろ」
前を向いたまま、つぶやいた。