タイガーハート
『ちょっと、話していかない?
あたし、小虎の事知りたいんだ』
そんな伏見の提案に、
伏見と一つの机を挟んで座った。
ポツリ、ポツリと話をする。
好きな教科は?
好きな色は?
好きな芸能人は?
他愛ない話をしながら笑い合う。
『小虎はさ、兄弟いるの?』
伏見が質問した。
「いない。
両親もいない」
『え?』
伏見が、驚いた顔でこちらを見つめる。
目線を合わせないように窓の外を見た。
「母親は外に男作って出て行った。
父親は自分の事しか面倒見れない人で、俺を手放した。
祖父母のところにいる。
まぁ、年金暮らしだからバイトしなきゃいけないけど…」
話しながら視線を戻すと。
『ことら……っ』
「何で伏見が泣くんだよ」
ポロポロの涙を流す伏見。
ふっと、笑ってしまった。
その涙ひと粒ひと粒が、心に暖かくしみる。
手を伸ばして、指で伏見の涙を拭う。
気だるい陽気の中を、春の香りがする風が通り抜ける。