タイガーハート

母が恐る恐る口を開く。
『とら…?』

「うん」
短く返事をする。

訪れる沈黙。
埋まらない距離は、離れていた年月のせいだけではない。


その後も、机に向かう俺の横に張り付いて、
学校のことや、友達のこと、様々な事を聞いてきた。

でも俺か話したいことはひとつだけだった。


時計に目をやる。21時を回っていた。
ノートを閉じ、立ち上がる。

『とら、』

「ひとつ、聞きたいことがあるんだけど」
母の言葉を遮り、切り出す。

『なに?』

「誰かの犠牲の上に成り立った幸せは、幸せだった?」


母に視線をやると、視線を逸らすようにうつむいた。
それを確認すると居間から出て行く。


埋まるわけがない。
母は、自分の幸せの為に俺を捨てたんだから。

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