タイガーハート
「野並さん…
ごめん…」
野並さんがこちらを見上げる。
『謝らなくていいから…傷つけてよ…っ』
少し屈んで、顔を覗きこむ。
「できない」
口にした瞬間。
野並さんが制服の胸ぐらを両手で掴んだ。
体のバランスを崩し、後ろへ倒れこむ。
野並さんが俺に馬乗りになっている。
至近距離で目が合うと、
野並さんは肩をすくめるように俺に、キスをした。
すぐに両腕を掴み、自分から野並さんを引き剥がす。
「…やめろ」
まっすぐに彼女を見る。
その時、引き戸のすぐ外で廊下を駆けて行く足音がひとつ、耳に届いた。
この教室は廊下の突き当りだ。
「伏見。」
うわ言のようにつぶやくと、野並さんを振り払い、無我夢中で教室を飛び出した。