タイガーハート
メイド喫茶が開店してからは、
目の回るような忙しさだった。
クラスメイト曰く、“梨央効果”らしい。
家庭科室の冷蔵庫を借りて、材料を保管しているので、
材料がなくなる度に往復の必要があった。
階数が違う上に、少し距離がある為、キッチン係と往復係を男子で分担した。
しかし、忙しくなるにつれ、人出不足となり、
俺もすでに何重にも往復をしていた。
喉の奥、鉄の味が広がる。
そこへ声が飛んてくる。
『小虎ー!卵とケチャップ、メープルシロップが切れた!』
また立ち上がり、家庭科室へ向かう。
「はぁ…っ」
家庭科室に着くと、切らした息を整えずに引き戸を開ける。
冷蔵庫の前に、見慣れた後ろ姿があった。
揺れる、ポニーテール。
「…伏見。どうした?」
声をかける。
何かに弾かれたように、伏見が勢い良く振り返る。
『……ざ、材料が…』
「無くなったなら、俺に言え。
…嫌なら、隼人でもいい。」
付け加えると、隣の冷蔵庫から頼まれた物を出す。
『わ、かった』
そう言い残すと、両手いっぱいに材料を抱え、急いで去ろうとする。
「伏見、待って。」
咄嗟に伏見の後ろ姿に言い放つ。
足を止める伏見。