タイガーハート


「…百花」

また耳元で囁く。

伏見が驚いた顔でこちらを見上げたまま、固まる。


「百花、俺も構って」

真っ赤になり、口をぱくぱくさせる。

『もぉっ!からかって!』

抱きしめる腕をぽかぽかと叩く。


すると、教室の中から声がした。
『もも、小虎くん!

またいちゃついてー!授業始まるって!』
窓から顔を出す野並さんの姿。

『はぁぁい!』
元気よく返事をする伏見から手を解くと、教室の方へ体を向ける。



すると肩をがしっと掴まれ、グラッと右肩が下がった。
その瞬間、伏見の唇がちゅっ、と音を立てて俺の頬に触れた。

『仕返しだよっ!』

不意をつかれて、驚いて彼女を見る。
綺麗な笑顔。
白い肌に、日差しにキラキラと透ける茶色の髪。


まじまじと見て、顔が熱くなる。


俺が欲しかったものは、
普通の幸せと、俺を愛してくれる人。


見つけたものは、こんな普通の幸せ。


けれど、これが最高の幸せ。


(完)

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