俺様御曹司の悩殺プロポーズ
私の下半身の冷えを心配してくれたおばさんと別れて、少し歩調を速めた。
遅刻すると焦っているせいではなく、人の混み合う地下歩行空間から、早く抜け出したかったから。
顔を隠すように俯いて、人波を縫うように歩いていると、
今度は女子高生二人組が、後ろから走って私に追いついた。
「あー!やっぱそうじゃん!
テレビに出てた女子アナだ!
名前……なんだっけ?」
「牛子じゃね?」
「違うって!牛子はパンツだから!
ねぇねぇ女子アナさん、名前教えて……」
「モ〜ウ! 牛子でいいです!
急いでいますから、失礼します!」
女子高生二人組から走って逃げ出し、階段を駆け上がった。
悔しくて、顔が般若みたいになっていた。
みんなして馬鹿にして……。
それもこれも、田舎者の私が、大都会東京なんかに出てしまったせいだ。
私に東京は無理。
二度と東京には行かないという思いは、収録から二ヶ月経った今も変わらず胸にあった。
私は地元北海道で、地味で平和に女子アナを続けたいだけ。
そう願っていたのに――。